抜けた乳歯の根っこ、残ってますか?

お子さんが「歯が抜けた!」といって持ってきた乳歯、よく見てみてください。もし、その乳歯の根っこがしっかり残った状態で抜けていた場合、それはある疾患のサインかもしれません。

その疾患とは、「低ホスファターゼ症」という、発症割合は10万人に1人というまれなものですが、進行性の疾患であり、遺伝子の異常により、全身の骨形成に障害が起きる難病です。

低ホスファターゼ症とは

原因は、硬組織(骨、歯の周りに存在するセメント質)の石灰化や神経伝達物質の合成に重要な役割を果たす「組織非特異的アルカリホスファターゼ」という酵素をつかさどる遺伝子の突然変異です。それによって、骨折しやすくなる、歩行障害、けいれん、腎石灰化等、全身に影響が及びます。

発症する年齢はさまざまで、一般的には周産期型(胎生期あるいは出生時に発症)、乳児型(出生後6ヶ月未満に発症)、小児型(出生後6ヶ月以上18歳未満に発症)、成人型(18歳以上に発症)、歯限局型(症状が歯に限局しており、あらゆる年齢に発症)に分類されますが、成人型をのぞく多くの場合、「乳歯の早期脱落」を起こします。

医科での低ホスファターゼ症の診断には、主に「骨の石灰化障害」と、4歳未満の「乳歯早期脱落」の2つの症状が用いられています。このうち1つ以上の症状が認められ、血液アルカリホスファターゼ(ALP)値が低い場合は、遺伝子検査を行って確定診断を行うことになっています。

早期に治療を開始し、症状を改善するためには、早期の発見が非常に重要です。低ホスファターゼ症は、近年まで根本的な治療法がありませんでしたが、酵素補充療法のための治療薬が2015年に日本で発売されるようになりました。早く疾患に気づくことができれば、治療の効果をより期待できます。

では、なぜ低ホスファターゼ症では、乳歯の早期脱落が起こりやすいのでしょうか。

通常、歯の根っこと骨の間には歯根膜という歯と骨をつなぐ靭帯のようなものが存在し、歯を支えていますが、厳密には、歯の根っこの表面にあるセメント質という層と繋がっているため、セメント質がないと歯根膜は存在できないのです。

低ホスファターゼ症では、このセメント質が十分に存在しないため、歯根膜が十分に機能せず、軽度の歯周病でも深部の歯根膜が消失してしまい、乳歯が早期脱落してしまうと考えられています。

子どもの乳歯は通常、生後12ヶ月頃からはえ始め、6歳ごろから永久歯へ交換していきます。14歳で乳歯が抜けてしまったという場合は、一度歯科医院を受診することをお勧めします。

もし、お子さんの歯が抜ける時期が早すぎる気がする、抜けた歯が長い気がする、等不安な点がございましたら、お気軽にご相談ください。